企業リスクとBCP

日付 2017/02/02
卓話者 進藤 研 会員

<はじめに>
こんにちは。
損保ジャパン日本興亜の進藤です。本日はよろしくお願いします。
今日、私がなぜこのような題材を取り上げたかをはじめにお話させていただきます。
企業が直面するリスクはますます多様化されており、皆様におかれましても日々、その対策にご尽力されていることと思います。
企業のリスク対策には様々な方法があり、弊社が提供している保険もその手段の一つです。
しかし、昨年発生した熊本・大分地震、またもうすぐ6年になりますが、東日本大震災のような想定外の大規模災害に遭遇した場合、これまでに努力して積み重ねてきたものが一瞬にて失われてしまうことに非常に胸のつまる思いをいたしました。
今、我々は社員を守る、また企業を守ることについて本当に必要なことは何かということを皆様にお伝えしたいという思いから、このテーマを選択いたしました。
<1.熊本・大分地震のつめあと>
10 ヶ月前のことですね。まだ皆様のご記憶にも新しいと思います。
熊本を中心に大きな被害をもたらしました。別府や由布をはじめとして、大分にも被害がありました。私はまだ大分に着任していませんでしたが、被害の状況、その対応について詳細に聞いております。
熊本ではもちろんですが、弊社の大分支店においても、まだ、災害対策本部が活動しており、日々、災害調査から保険金のお支払をつづけております。
<2.熊本・大分地震の特徴(震源地)>
今回の地震は熊本県から大分県にかけて震源が移動して発生しています。
これはここに記した3つの断層が動いたものとされています。
震度6~7の非常に強い揺れが幾度にもわたって発生したことがわかります。
<3.熊本・大分地震の特徴(過去の大地震との比較)>
ここで直近の大震災と比較しながら、今回の地震の特徴を述べたいと思います。
まず、地震のエネルギーですが、東日本大震災より少ないですが、阪神淡路大震災と同じマグニチュード7.3です。非常に大きな地震であったことが分かります。
今回の地震は阪神大震災と同じく断層のズレで発生する内陸型の地震で直下型とも言われています。東日本大震災のようなプレートの境界で発生するものではありませんので、津波の被害はありませんが、住宅やビルなどが密集する場所の地下で発生すれば建物の倒壊などの被害が大きくなります。今回は阪神大震災のように火災が発生しなかったのは不幸中の幸でした。
<4.熊本・大分地震の特徴(地震の発生回数)>
今回の地震の特徴として強い余震が数多く発生しています。この図でもわかるように、震度6以上が本震を含めて7回も発生しています。このような場合、二次災害の恐れがあり、復旧も遅れます。
<5.熊本・大分地震の特徴(想定されていた発生率)>
先ほど、今回の地震は内陸の活断層を起因とする地震だと述べました。
日本全国の活断層について、政府の地震調査研究推進本部が長期評価を実施していました。その評価の中から今回の地震を起こした断層を取り上げたのがこの右の表です。
布田川(ふたがわ)断層、日奈久(ひなぐ)断層、別府―万年山(はねやま)断層の評価を見ると、30年以内の発生確率はやや高い、高いとされていました。一部のメディアでは平成25年の評価から九州の活断層の危険性が取り上げられていました。
<6.熊本・大分地震の特徴(保険金の支払)>
今回の地震を含めた地震保険金のお支払い状況です。
東日本大震災の支払が多いのは、やはり津波での被害が大きかったからです。それに比べ今回の被害は揺れによる建物、家財への被害のみです。既に23万件以上のお支払いが完了しています。金額も3,600億円を超えています。まだ処理は続いておりますので件数、金額ともに増えると思います。
同規模の地震である阪神大震災と比べて4倍以上のお支払い金額となっています。
これは阪神大震災以降、地震保険が普及したことが要因です。
世帯の加入率でみても、ちょうど4倍ほどになっています。それでも大分では加入率が23.1%です。地震保険は火災保険の特約として付保するのですが、火災保険への地震保険付帯率も62.9%であり、まだまだ地震保険が広く普及していると言えないのが現状です。
<7.南海トラフ巨大地震(被害想定―規模)>
次に、今後発生が危惧されている大地震について述べたいと思います。
まず、南海トラフ地震です。過去から周期的に発生していますが、次は東海、東南海、南海地震が連続して発生する周期と言われています。前のページの参考で載せましたが、マグニチュード8~9規模の地震が30年以内に発生する確率が70%となっています。
それとは別に1923年に発生した関東大震災の原因となった相模トラフの危険性も注視されています。相模トラフは相模湾から日本海溝に至る250キロメートルに存在しており、4つのプレートが重なり合う複雑な構造をもっています。最近、このあたりの体積ひずみが大きくなっているとの結果がでていました。
南海トラフ、相模トラフの最大被害想定レベル2(外枠)をみると、想定震源域が広範囲に渡っているのが分かります。
<8.南海トラフ巨大地震(被害想定―震度・津波)>
被害想定の範囲は太平洋側一帯となっています。震度5以上の被害は中部だと岐阜や長野、関西は京都、滋賀、中国は瀬戸内一帯、九州は大分まで想定されています。また、津波も太平洋側のほとんどの海岸線で2m以上の津波が予想されています。
<9.九州の活断層で発生する地震の確立>
次に九州での直下型地震の予想です。九州には多くの活断層があります。この表は政府の地震調査研究推進本部が公表しているものです。8ページに載せている表が最新版です。表をみると、30年以内のM6.8以上の地震発生確率が前に出されていた数値と比べて非常に高くなっています。前回の調査から主要活断層について更に詳細に長期評価を実施した結果と発表されています。
<10.日本の地震発生確率>
これらのようにプレート海溝型地震、活断層による直下型地震は日本のどこでも震度7に見舞われる可能性があります。
我々はそのための備えと構えを事前に行っておかなくてはなりません。
<11.地震保険について①>
地震対策のひとつに地震保険があります。地震や津波による建物の倒壊、火災は火災保険で補償されないため、地震の被害対策には地震保険の加入が必要です。日本政府が再保険をすることで成り立っている制度です。どこの保険会社で入っても補償内容、料金は同じです。
それとは別に企業が所有する建物(ビルや工場など)に付帯する企業向地震保険があります。これは政府の介入はなく、各保険会社が個別に引受けます。そのため、補償内容や保険料において各社異なります。この分野はまだまだ普及しておらず、火災保険への付帯率は数パーセントです。
<12.地震保険について②>
今年1月に家計向の地震保険が改定されました。損害の補償が3区分から4区分に広がっています。より被害の実態に応じたお支払いができるようになりました。また、保険料の改定があり、全国平均で5.1%の値上げとなり、大分県では10%以上の値上げとなりました。熊本・大分地震があったからではありません。もっと前から予定されていたもので、都道府県別に地震発生危険度に応じて保険料が改定されたものです。
<13.企業に求められる地震対策①>
ここからは企業に求められる地震対策についてお話させていただきます。
今回の震災では11万人以上の方々が避難生活を余儀なくされ、個人の生活に大きな被害がでました。企業においても営業活動において様々な被害がでております。
企業においては建物の被害はもちろんですが、業務に必要な機械や設備にも多大は被害が生じ、営業継続が出来なくなる状況が発生しました。
また、被害自体は少なかった企業でも、ライフラインが途絶していたため事業継続が制限された企業が多数ありました。道路の寸断で部品が納入されないなどがその例です。
その他、部品メーカーが被害を受けたため、部品の納品がされず商品の生産が出来ないなど、サプライチェーンの途絶がクローズアップされました。
<14.企業に求められる地震対策②>
これまでの地震対策は建物や設備を守り、従業員の安全を確保することに注力されてきました。それ自体は当然行われなければならないことです。ただ、東日本大震災や今回の震災を受けて、それだけでは企業を守れないことが明らかになってきました。
それは事業を継続させられなければ企業が存続できなくなることであり、また、自社に被害がなくても仕入先や納品先などの企業が被災しサプライチェーンが途絶されることによる事業継続が出来なくなる恐れがあることです。
今、企業は防災から事業継続「BCP」への取組みが必要になっています。
<15.企業に求められる地震対策③>
BCPとは事業継続計画の略称です。BCPもしくはBCPを含めた事業継続マネジメント「BCM」とも呼ばれています。
BCPは企業が緊急事態に陥った場合に、被害を最小限に留め、事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために前もってその方法、手段を取り決めておく計画を指します。
<16.企業に求められる地震対策④>
BCPに対象とするリスクは発生頻度が少なく、事業への影響度が大きいものを想定するのが一般的です。すべてのリスクに対して用意するのが理想的ですが、物理的に不可能です。経団連の調べでは地震、新型インフルエンザ、津波、水害、停電などを準備しているケースが多いようです。特に地震や津波など損害規模が大きくまた、広範囲にわたるものを優先する必要があります。
<17.熊本・大分地震発生後の中小企業の状況①BCPなしのケース>
今回の震災で企業が陥った状況の例です。
震源地に近い場所では建物、設備、装置に被害を受け操業が出来なくなりました。特に生産設備、ケーブル、配管などへの被害が致命傷となりました。また、振動による設備のズレで生産出来なくなったり、部品や材料が壊れたために操業が出来なくなることもありました。
操業を停止した結果、顧客は仕事を県外や国外の企業に転注せざるを得なくなりました。長く停止した企業ほど、事業が復旧しても元の仕事量に戻っていないとの事です。
<18.熊本・大分地震発生後の中小企業の状況②BCPありのケース>
BCPを用意していたことで、事業継続が非常にうまくいった例を紹介します。
半導体製造メーカー「ルネサスエレクトロニクス」社の例です。
ルネサス社は東日本大震災でグループ会社が大規模被災しました。半年間生産が停止し、世界の自動車工場などの操業停止を招きました。また、自社にも数百億円の損害を出し、経営的にも大きなダメージを受けました。この教訓から「BCP構築プロジェクト」を発足させました。2年半の期間と多額の費用をかけてBCP体制を構築したものです。そして、2年後に熊本・大分地震が発生しました。
<19.熊本・大分地震発生後の中小企業の状況②BCPありのケース>
ルネサス社熊本川尻工場では、地震発生30分後にはBCPに従い「地震対策本部」を立ち上げ、対応にあたりました。BCPに基づき、従業員の安全確保を行った上で、被害状況の把握を実施。そして翌朝には状況把握が出来ていました。建物、設備への地震対策が奏効し、被害をかなり抑えられたため損害は軽微でありました。8日目から一部生産を開始し、38日後には全面生産再開が出来たものです。これは半導体メーカーとしては驚異的な速さとのことです。同社では今回の震災で後処理工程作業の委託先企業3社が被災し、操業停止となりましたが、サプライチェーン全体でのBCP取組みが出来ていたため、顧客へのデリバリーの影響はありませんでした。
<20.熊本・大分地震発生後の中小企業の状況③BCPありのケース>
ルネサス社が実行したBCPの内容一例です。
実際は2年半の期間をかけて実行されていますので、もっと多岐にわたっています。
今回の震災でBCPをすばやく実施できたのは、定期的に従業員の訓練を実施していたからだそうです。
ルネサス社はBCPの策定により、熊本・大分地震で事業継続を早期に復旧させ被害を最小に抑え、顧客からの信頼も大きく増しました。また、この取組みが各種メディアに取り上げられ、同社の社会的信頼度を増し、企業価値が増大しました。
ルネサス社の取組みは公表されていますので、是非参考にしてください。
<21.BCPの実施プロセス>
ここでは、BCPを策定するにあたってどのような手順をとらなければならないかを示しています。①の事前準備から⑧の文書化までさまざまな項目をクリアさせる必要があります。
また実際に建物や設備などの耐震補強なども必要になります。ルネサス社がBCPを完成させるまで2年半もかかった理由が分かります。
<22.BCP策定・運用のための参考資料>
皆様がこれからBCPを自社において策定するために参考になる資料を紹介します。これらのHPにはBCP策定のための手順・方法が詳細に出ています。
弊社もグループ会社であるSOMPOリスケアマネジメント社においてBCP策定のためのサービスを提供しております。BCP策定への人材をさけない・時間がないなどでBCP策定に支障がある場合、お気軽に弊社にご相談ください。専門のコンサルタントがお手伝いをさせていただきます。
<23.本日のまとめ>
BCPの策定は一部の企業の特別なものでなく、全ての企業に必要です。準備が出来ている会社はまだまだ少ないですが、今後は会社の経営の一部に取り入れてより強い経営体質をもつ会社となっていただければと思っております。
<最後に>
防災は従業員のためにあります。BCPはお客様のためにあります。
災害時においても事業を継続し、商品やサービスを供給継続させることこそ、企業の存在意義そのものではないでしょうか。
以 上