失敗に学ぶ

日付 平成26年11月20日
会長 由見 真治朗

皆さんはドクターXというドラマを見たことがありますか?専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけが武器であるフリーランスの天才外科医・大門未知子が、金と欲にまみれた病院組織に鋭いメスを入れ、医術は誰のものかではなく、誰のためにあるのかという医療の神髄を描くドラマです。大門未知子の決め台詞「私、失敗しないので」の言葉通り、成功率や生存率が低く、術式が確立されていない危険なオペにも挑戦し、どんな難手術も正確かつ短時間で成功させるシーンは痛快です。勿論、ドラマですから作り話なのですが、「私、失敗しないので」という言葉には、「失敗していい医者なんていない!」という、医師としての強い決意を表しています。

沢山の失敗をしたことで有名なのは発明王のトーマス・エジソンですが、「私は数千回失敗をした。しかし、それは一歩ずつ成功に向かって前進していることであった」と、失敗は成功するために必要不可欠だとします。

エジソンは、白熱電球や蓄音機の実用化に成功したことで知られ、生涯に1,300もの発明をしましたが、それ以上の失敗をしたと言われています。白熱電球の改良では、フィラメントの材料として6,000種類もの素材を炭化し、実験で失敗を繰り返した結果、京都の竹が2,450時間も灯ることを発見します。その後、GE(EdisonGeneralElectricCompany)を設立し、人々の生活を一変させるような重要な発明をしたのです。

2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏、そして今年ノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇氏と天野浩氏もたまたま失敗した実験から世紀の大発見をしました。

田中氏は、タンパク質を分析する機器の開発を行っていましたが、別々の実験で使うグリセリンとコバルトの粉末を混ぜる失敗をします。普通なら使い物にならない試料は捨てますが、田中氏は勿体ないと考え分析してみました。すると、溶液中の高分子がそのままイオンの状態となっており、その結果を基に解析と検討を重ね、ソフトレーザー脱離法としてタンパク質をイオン化させる方法を完成させました。この成果は、これまで解析出来なかったごく微量のタンパク質の解析も可能になり、新しい薬の開発や病気の診断、予防に役立っています。

赤﨑氏と天野氏は、LEDの中でも技術的に難しく、20世紀中の開発は無理だと言われていた青色LEDの開発に取り組んでいました。一般的に高温にしないと窒化ガリウムの綺麗な結晶は出来ないのですが、ある日、実験の途中で加熱する炉の調子が悪くなり、試しに低温で焼成すると思わぬ成功に繋がったと言います。天野氏は、青い光源に必要な高品質の窒化ガリウムの結晶化に世界で初めて成功するまでに3,000回失敗したそうですが、諦めずに根気強く続けることの大切さについて語っています。

以前、失敗学を提唱する畑村洋太郎氏の講演を聴いたことがありますが、その中で畑村氏は、失敗には成長と進歩に必要な「いい失敗」と同じ愚を繰り返す「悪い失敗」の2つがあり、失敗をマイナス面だけ見ず、プラスに転化する失敗の積極的な取扱いが必要。日本の社会では、失敗を恐れ、失敗を恥じ、失敗を隠そうとし、失敗に学ばないという欠点を指摘し、創造、進歩に失敗は付き物であり、ゼロから物を創り出すのに初めからうまくいくはずが無い。失敗から学ぶことはとても多く、新しいことに挑戦しないのは成長が止まること。ただ生死に及ぶような致命的な失敗は絶対にしてはいけないと言います。

今年、開催されたサッカーのワールドカップでは、日本代表は一次リーグ敗退と残念な結果に終わりましたが、ファンやマスコミを始め大変なバッシングに、日本という国は相変わらず失敗した人間には冷たい社会だと感じた人も多いのではないでしょうか。スポーツに限らず、企業の経営者も挑戦した結果がうまくいかないと叩かれますが、国内や国外の様々な分野で活躍する日本人を目標に頑張る若者たちは、失敗者に対する冷たい社会を見てどのように思うでしょうか。これからの日本の成長に必要なのは、失敗を恐れず、新しいことや難しい課題に果敢に挑んだ姿勢を評価し、失敗をたたえるという意識ではないでしょうか。